陸上競技の記録を伸ばすためにウエイトトレーニングを始めたいものの、スクワットを何回行えばよいのか、短距離選手と長距離選手で同じメニューを使ってよいのか、筋肉をつけすぎて動きが重くならないのかと迷う選手は少なくありません。
陸上ウエイトで重要なのは、単に重いバーベルを持ち上げることではなく、地面に大きな力を伝える能力、片脚で姿勢を保つ能力、股関節を素早く伸ばす能力など、自分の種目で必要になる要素を見極めて鍛えることです。
適切な筋力トレーニングは短距離や跳躍や投てきだけに必要なものではなく、中長距離でもランニングエコノミーの改善や終盤のフォーム維持を支える可能性があるため、競技特性に合わせて負荷と量を調整すれば幅広い選手に活用できます。
ここでは陸上選手が優先したい基本種目から、短距離や中長距離やパワー系種目に応じた組み方、重量と回数の決め方、年間スケジュールへの入れ方、安全に継続するための注意点までを整理し、練習へ落とし込める形で紹介します。
陸上ウエイトは競技動作につながる全身種目から始める

初めて陸上ウエイトのメニューを作る場合は、細かな筋肉を個別に鍛える種目を増やすより、股関節、膝、足関節、体幹、上半身を連動させる多関節種目を中心に組み立てることが基本です。
ただし、競技動作に似ている種目だけを選べばよいわけではなく、安全に負荷を高められること、左右差を確認できること、技術を安定させやすいことも選択基準になります。
最初からすべてを取り入れる必要はないため、下半身の両脚種目、片脚種目、股関節主導種目、上半身の押す動作と引く動作をバランスよく選び、習得度に応じてパワー種目を追加しましょう。
スクワット
スクワットは股関節と膝を伸ばして地面へ力を加える基礎を養いやすく、短距離、跳躍、投てき、中長距離のいずれでも土台となる下半身種目ですが、深くしゃがむことや高重量を扱うこと自体が目的ではありません。
足裏全体で床を捉え、膝とつま先の方向をそろえ、体幹を保ったまま自分が制御できる範囲まで下降することを優先し、フォームが崩れる重量では記録向上につながる刺激より疲労や不安定さが大きくなります。
| 種類 | 主な特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| バックスクワット | 全身で高い負荷を扱いやすい | 基礎筋力の向上 |
| フロントスクワット | 上体を立てやすい | 姿勢保持の習得 |
| ゴブレットスクワット | 動作を覚えやすい | 初心者の導入 |
| ボックススクワット | 深さを一定にしやすい | 動作範囲の管理 |
陸上選手は脚の長さや足関節の動きや骨盤の形が異なるため、全員が同じ足幅や同じしゃがみ方を使う必要はなく、腰や膝に痛みが出ない範囲で安定して力を出せるフォームを探すことが大切です。
フォームを習得する時期はゴブレットスクワットや軽いバーベルから始め、すべての反復を同じ軌道で行えるようになってから、少量ずつ重量を増やすと動作の再現性を失いにくくなります。
走練習で脚に強い疲労が残っている日に無理な高重量を重ねるのではなく、スプリントや跳躍の質と翌日の回復も確認しながら、競技練習を支えられる範囲に収めましょう。
デッドリフト
デッドリフトは股関節を後方へ引いてから強く伸ばすヒップヒンジを学びやすく、大殿筋、ハムストリングス、背部、握力を含む身体後面をまとめて鍛えられる種目です。
スタート直後の加速、踏み切り、投てきの押し出しなどでは股関節伸展が重要になりますが、デッドリフトの挙上重量が増えれば自動的に競技記録が伸びるわけではなく、走る練習や跳ぶ練習への接続が必要です。
床から引く通常のデッドリフトで腰が丸まりやすい選手は、バーの位置を高くしたラックプル、身体の横で重量を持てるヘックスバーデッドリフト、軽いルーマニアンデッドリフトから始める方法があります。
下降時にバーを脚から離して腰だけで受け止めると負担が集中しやすいため、腹圧を保ち、股関節を後ろへ移動させ、バーを身体の近くに通すことを繰り返し練習します。
ハムストリングスへ強い張りが残ると最高速度のスプリントやハードル練習に影響する場合があるので、重要な走練習の直前を避け、反復回数とセット数を必要以上に増やさないことも重要です。
ブルガリアンスクワット
ブルガリアンスクワットは片脚を中心に力を発揮するため、走行中の支持、踏み切り、ハードルの抜き脚などで必要になる左右それぞれの安定性を確認しやすい種目です。
両脚のスクワットでは見えにくい左右差が表れやすく、片側だけ膝が内側へ入る、骨盤が傾く、足裏が浮くといった動きを把握できるため、重量を増やす前の評価としても役立ちます。
前脚の膝だけで上下するのではなく、足裏で床を押しながら股関節と膝を一緒に伸ばし、上体の角度と歩幅を調整して狙った部位へ負荷を分散させることがポイントです。
バランスを取ることに精いっぱいになる選手は、片手でラックを支えながら行うスプリットスクワットから始めると、ふらつきを抑えて脚へ適切な刺激を与えやすくなります。
左右差をなくそうとして弱い側だけ極端にセット数を増やすと、かえって疲労差が広がることがあるため、基本は同じ回数を行い、必要な補正は指導者や専門家と相談して慎重に進めましょう。
ヒップスラスト
ヒップスラストは肩甲骨付近をベンチに置き、股関節を伸ばして臀部を鍛える種目であり、スクワットやデッドリフトとは異なる角度で股関節伸展へ負荷をかけられます。
腰を反らせてバーを高く上げるのではなく、肋骨と骨盤の位置を保ち、動作の最上部で臀部を収縮させることが重要で、腰部へ違和感が出る場合は重量や可動域を見直す必要があります。
バーベルを使えない環境では、自重のグルートブリッジ、片脚のブリッジ、トレーニングバンドを使った動作でも導入できるため、学校の部活動でも取り入れやすい種目です。
地面を押す感覚を得やすい一方で、立位で姿勢を保つ能力や片脚支持をすべて補えるわけではないので、ヒップスラストだけに偏らずスクワットや片脚種目と組み合わせます。
臀部へ刺激を感じにくい場合は、足の位置が遠すぎるか近すぎる可能性があるため、最上部で膝がおおむね直角に近づく位置を基準にしながら個人に合う位置を探しましょう。
ベンチプレス
ベンチプレスは胸、肩、上腕を中心に押す力を鍛える代表種目であり、陸上では腕振りの安定、投てき動作、全身の筋力バランスを支える補助的な役割を持ちます。
短距離選手が上半身を大きくすれば必ず腕振りが速くなるわけではなく、過度な筋肥大や肩周辺の強い筋肉痛が競技動作を妨げる場合もあるため、下半身種目と同じ量を行う必要はありません。
肩甲骨をベンチ上で安定させ、手首の真下にバーが収まるように握り、胸へ下ろす位置を毎回そろえることで、肩前面へ負担が集中するのを避けやすくなります。
肩に違和感がある選手や器具が少ない環境では、ダンベルプレス、腕立て伏せ、ランドマインプレスなどへ変更し、痛みのない軌道で押す力を維持する選択ができます。
走る能力を高める目的なら挙上重量の競争を優先せず、引く種目や体幹種目とのバランスを取りながら、競技練習の質を落とさない範囲で取り入れることが現実的です。
懸垂
懸垂やローイングは広背筋、僧帽筋、肩甲骨周辺を鍛え、腕を後方へ引く動作や上半身の姿勢保持を支えるため、押す種目に偏りやすいメニューのバランスを整えられます。
懸垂が一回もできない場合でも、反動を使って回数を稼ぐ必要はなく、ラットプルダウン、ゴムバンド補助、斜め懸垂を使って肩甲骨と肘の動きを習得できます。
首をすくめたまま顎だけをバーへ近づけると肩や肘へ負担が集まりやすいため、胸を軽く引き上げ、肩甲骨を下げながら肘を身体の側面へ引く意識を持ちます。
投てき選手は高い上半身筋力が求められる一方、短距離や中長距離の選手は必要量が異なるので、体重増加と疲労を観察しながらセット数を調整することが大切です。
前後の筋力バランスだけでなく、肩の可動域や胸郭の動きも腕振りへ影響するため、ウエイト後に姿勢が固まる感覚がある場合は負荷を減らし、動的な準備運動も見直しましょう。
クリーン
クリーンは床や膝付近からバーベルを加速させ、股関節、膝、足関節を素早く伸ばす動きを学べるため、力を短時間で発揮したい陸上選手に用いられるパワー種目です。
一方で技術的な難度が高く、腕だけでバーを引き上げたり、受ける位置で手首や腰を痛めたりしやすいため、筋力がある選手でも最初から高重量へ進むべきではありません。
- 棒を使った基本姿勢
- ハングポジションの習得
- ジャンプシュラッグ
- 軽重量のハングクリーン
- 安定後の段階的な加重
上記のように動作を分解し、専門知識を持つ指導者のもとでバーの軌道とキャッチ姿勢を確認すると、重量を追うより安全にパワー発揮を学びやすくなります。
フロントラック姿勢が取れない場合や設備がない場合は、メディシンボール投げ、ケトルベルスイング、軽いジャンプスクワットなど、目的に近い別種目を選ぶ方法もあります。
クリーンを行う日は疲労した状態で反復回数を増やさず、一回ごとの速度と姿勢が落ちた時点で終了し、その後のスプリントや跳躍へ悪影響を残さないことを優先しましょう。
競技種目に合わせて鍛える能力を絞る

陸上競技は走る、跳ぶ、投げるという共通点がある一方、競技時間、接地時間、必要な筋量、力を発揮する方向が大きく異なるため、全選手へ同じウエイトメニューを配る方法は効率的ではありません。
種目別に完全に別の種目を使うより、スクワットやヒンジなどの基本種目を共有しながら、重量、回数、実施速度、補助種目、走練習との配置を変えると管理しやすくなります。
自分の専門種目だけでなく、現在不足している能力、技術練習で受ける負荷、過去のけがも考慮し、競技パフォーマンスへつながる可能性が高い要素へ時間を配分しましょう。
短距離
短距離選手のウエイトでは、スタートと加速で大きな力を出す最大筋力、最高速度に近い局面で素早く力を立ち上げる能力、片脚支持中に姿勢を保つ能力をバランスよく鍛えます。
スクワットやデッドリフトで基礎筋力を高めるだけでなく、クリーン、ジャンプ、メディシンボール投げなどを組み合わせ、重い物を動かす能力を速い動作へ移行させる視点が必要です。
| 強化要素 | 主な候補 | 配置の考え方 |
|---|---|---|
| 最大筋力 | スクワット | 高強度走と同日に集約 |
| 股関節伸展 | デッドリフト | 最高速度練習前日を避ける |
| パワー | クリーン | 疲労が少ない序盤 |
| 片脚安定 | スプリットスクワット | 補助種目として少量 |
短距離走に対するレジスタンストレーニングの研究では有効性が示される一方、介入内容や対象者によって結果が異なるため、ウエイトだけを増やさずスプリント計測と合わせて判断する必要があります。
スクワットの重量が伸びても加速タイムや最高速度が変わらない場合は、筋力が不足しているのではなく、力を出す方向、動作速度、技術、疲労管理に課題がある可能性も検討します。
特にハムストリングスへ強い筋肉痛を残すメニューは全力疾走の質を下げやすいため、高強度のスプリントとウエイトを同日にまとめ、翌日を回復日にする方法も有力です。
中長距離
中長距離選手のウエイトは筋肉を大きくすることだけが目的ではなく、一定速度を少ないエネルギーで維持する能力、接地で身体を支える能力、終盤でも姿勢を保つ能力を補うために行います。
複数の系統的レビューでは、適切な筋力トレーニングや爆発的筋力トレーニングがランニングエコノミーや競技成績を支える可能性が報告されており、走行距離が多い選手にも導入する余地があります。
- スクワット系の基礎筋力
- 片脚種目の支持力
- カーフレイズの足関節強化
- 軽量ジャンプの反発力
- 体幹種目の姿勢保持
NSCAジャパンの長距離ランナー向け資料でも、下半身の多関節種目やプライオメトリック種目が紹介されていますが、走練習との組み合わせと個人に合う負荷設定が前提です。
長距離だから軽い重量を数十回持ち上げるという考え方では、普段の走練習と刺激が重複しやすいため、筋力向上が目的ならフォームを保てる範囲で比較的重い負荷を少ない回数行う選択肢があります。
走行距離を急に減らさずウエイト量だけを追加すると総負荷が増えすぎるので、導入初期は一回三十分程度から始め、ポイント練習とレースへの影響を記録しながら調整しましょう。
パワー系種目
跳躍、投てき、混成などのパワー系種目では、強い力を出す能力に加え、その力を踏み切りやリリースまでの限られた時間で発揮する能力が重要になります。
高重量のスクワットやプレスで最大筋力の土台を作り、クリーン、スナッチの派生種目、ジャンプスクワット、メディシンボール投げなどで速い力発揮へつなげる構成が考えられます。
投てき選手は比較的大きな筋量が有利に働く場合がありますが、跳躍選手は体重当たりの筋力が重要になりやすいため、同じパワー系でも筋肥大期の長さや上半身の量を分ける必要があります。
重い重量をゆっくり動かす練習だけに偏ると競技速度との隔たりが大きくなり、反対に軽いジャンプだけでは最大筋力が不足することがあるため、異なる負荷領域を年間で使い分けます。
技術練習では踏み切り回数や投てき本数そのものが大きな負荷になるので、ウエイトの数値だけで管理せず、助走速度、跳躍回数、投てき量、関節の状態を含めて総合的に判断しましょう。
重量と回数は目的から逆算する

陸上ウエイトの重量と回数を決める際は、他の選手が扱っている重さを基準にするのではなく、最大筋力、筋肥大、パワー、動作習得のうち何を狙うのかを最初に明確にします。
同じスクワットでも、高重量を少ない回数行う方法と、中程度の重量を多めに行う方法では得られる刺激と疲労が異なるため、目的を曖昧にしたまま毎回限界まで追い込むべきではありません。
負荷設定は一回だけ挙げられる重量である1RMの割合、主観的運動強度、あと何回できるかを示すRIRなどを使い、体調に応じて微調整すると継続しやすくなります。
最大筋力
最大筋力を高める時期は、フォームを維持できる比較的重い重量を使い、少ない反復回数と十分な休息を組み合わせることで、一回ごとの力発揮を高い水準に保ちます。
ただし初心者がいきなり最大重量を測定する必要はなく、軽い重量で動作を習得し、余力を二回から四回ほど残して終了する方法でも段階的に筋力を伸ばせます。
| 目的 | 負荷の目安 | 回数の目安 | 休息の目安 |
|---|---|---|---|
| 動作習得 | 軽負荷 | 5〜10回 | 1〜2分 |
| 基礎筋力 | 中〜高負荷 | 4〜6回 | 2〜3分 |
| 最大筋力 | 高負荷 | 2〜5回 | 3〜5分 |
| 調整期 | 中負荷 | 2〜4回 | 2〜4分 |
表の数値は絶対的な処方ではなく、種目の難度、選手の経験、年齢、競技練習の負荷によって変える必要があり、毎セット限界まで行うことも最大筋力向上の必須条件ではありません。
ACSMが2026年に公表したレジスタンストレーニング指針でも、目的に応じた負荷調整と個別化が重視されており、複雑な方法より継続できる設計が土台になります。
重い重量を扱った翌日にスプリントタイムや跳躍の動きが大幅に落ちる場合は、筋力不足ではなく回復不足の可能性があるため、セット数、実施曜日、補助種目を減らして調整しましょう。
筋肥大
筋肥大を狙うトレーニングは筋断面積を増やして力を出す土台を広げられますが、体重増加が移動コストになる種目では、増やした筋量を競技力へ変換できるかを考える必要があります。
投てき選手や基礎筋力が不足している短距離選手には一定期間の筋肥大が有効な場合がある一方、中長距離や跳躍では必要以上の体重増加を避け、弱点となる筋群へ量を絞る方法が適しています。
- 一種目を6〜12回程度
- 余力を少し残して終了
- 週全体のセット数を管理
- 体重と競技記録を併記
- 走練習の質を優先
筋肉痛が強いほど効果が高いわけではなく、下半身の筋肉痛によって走動作が変わるほど追い込むと、技術練習の反復精度が下がり、週間全体では不利益になることがあります。
体重を増やす時期でも食事量だけを急激に増やさず、スクワット重量、ジャンプ、スプリント、腹囲、主観的な身体の重さなどを記録し、有効な増加かを判断します。
試合期へ入る前には反復回数と総セット数を減らし、筋量を維持しながらより速い挙上や競技動作へ重点を移すと、増やした筋力を記録へつなげやすくなります。
パワー
パワートレーニングでは重さだけでなく、力と速度の両方が重要になるため、バーベルを速く動かせる重量を選び、反復速度が明らかに低下する前にセットを終えます。
クリーンやスナッチの派生種目では技術によって扱える重量が変わり、ジャンプスクワットでは体重や器具の条件でも適切な負荷が異なるため、すべてを同じ1RM割合で管理することはできません。
一セット当たり二回から五回程度の少ない反復にし、セット間に十分な休息を取ると、疲労耐性ではなく一回ごとの爆発的な力発揮へ集中しやすくなります。
速度計測機器がなくても、バーが重そうに停滞する、着地位置が乱れる、音が大きくなる、キャッチ姿勢が崩れるといった変化を終了基準として利用できます。
パワー種目はウォームアップ後の疲労が少ない段階に置き、その後に最大筋力種目や補助種目を行う順番にすると、速い動作の質を確保しやすくなります。
年間計画に合わせて量を変える

一年中同じ重量とセット数を続けると、刺激に慣れるだけでなく、試合期に疲労を残したり、冬季に十分な基礎作りができなかったりするため、陸上ウエイトにも期分けが必要です。
期分けとは複雑な計算式を使うことではなく、現在の最重要課題を決め、競技会までの期間に応じて筋量、最大筋力、パワー、維持の優先順位を入れ替える考え方です。
NSCAジャパンのプログラム作成資料でも、種目、頻度、順序、負荷、回数、休息、漸進性など複数の変数を目的に合わせて操作する重要性が示されています。
冬季
試合が少ない冬季や一般的準備期は、フォームを作り直し、筋量と基礎筋力を高め、シーズン中に維持したい能力を蓄える時期としてウエイト量を確保しやすくなります。
ただし走り込み、坂道走、サーキット、跳躍運動も増える時期なので、ウエイトだけを冬季練習として追加すると総負荷が過剰になり、慢性的な疲労を抱える可能性があります。
| 段階 | 主な目的 | ウエイトの特徴 |
|---|---|---|
| 導入期 | 動作習得 | 軽負荷で反復 |
| 基礎期 | 筋量と支持力 | 中程度の回数 |
| 筋力期 | 最大筋力 | 高負荷で少回数 |
| 移行期 | 力発揮速度 | パワー種目を増加 |
四週間から六週間程度を一つの区切りとしても、体調や学校行事や合宿によって進み方は変わるため、期間を守ることより狙った能力が伸びているかを確認することが重要です。
毎週少しずつ重量を増やす方法だけでなく、同じ重量で動作を安定させる、反復速度を高める、セット数を一つ増やすなども漸進的な負荷として利用できます。
冬季の終盤ではウエイトの総量を徐々に減らし、加速走、最高速度走、助走、踏み切り、実投てきなどの専門練習へ高めた筋力を移す時間を確保しましょう。
試合期
試合期にウエイトを完全に中止すると、冬季に高めた筋力や動作感覚が低下することがあるため、量を減らしながら一定の強度を残して維持する方法が基本になります。
一回のセッションで多数の種目を行うのではなく、効果が高い基本種目を選び、ウォームアップを除いて短時間で終えられる構成にすると競技練習を妨げにくくなります。
- 基本種目を二〜四種目に限定
- セット数を冬季より削減
- 限界反復を避ける
- 筋肉痛の大きい種目を削減
- 重要試合から逆算して配置
短距離や跳躍では高強度の競技練習とウエイトを同日にまとめ、低強度日を明確にする方法があり、中長距離ではポイント練習後に短時間で行う方法も考えられます。
試合が毎週続く場合は毎回同じ量を行わず、重要度の低い試合週では通常量に近づけ、狙う大会の週では量を大幅に減らすなど優先順位をつけます。
維持に必要な量には個人差があるため、少ない量でも筋力が保てる選手と低下しやすい選手を区別し、挙上速度や主観的な重さを記録して調整しましょう。
レース週
レース週のウエイトは新しい能力を獲得する場ではなく、疲労を増やさずに力を出す感覚を整える場として位置づけ、通常週よりセット数と補助種目を減らします。
重要大会の直前に最大重量へ挑戦したり、慣れていない種目を追加したりすると筋肉痛や技術的な不安を残すため、普段から行っている種目だけを使用します。
軽いパワー種目や短時間の高強度刺激で身体が動きやすくなる選手もいれば、数日前から休んだ方がよい選手もいるため、大会で初めて方法を試さず練習試合で反応を確認します。
レース前日に行う場合は、回数を極めて少なくし、動作速度が高い状態で終了し、達成感を得るために追加セットを行わない自制が必要です。
調子が悪いと不安から練習量を増やしたくなりますが、レース週にできる適応は限られているため、睡眠、食事、移動、ウォームアップの準備へ意識を向けましょう。
安全性と回復を優先して継続する

ウエイトトレーニングは適切に行えば競技力を支える手段になりますが、フォームが不安定な状態での急な加重、回復を無視した高頻度、痛みを我慢した継続は避けなければなりません。
安全性は軽い重量だけを使うことではなく、ラックやセーフティーバーを正しく設定し、補助者を配置し、体調に応じて計画を変更できる環境まで含めて考えます。
特に成長期の選手、けがから復帰する選手、持病がある選手は自己流で進めず、保護者、指導者、医療従事者、資格を持つトレーニング専門家と情報を共有しましょう。
フォーム
正しいフォームは一つの見た目に全員を当てはめることではなく、目的とする筋群へ負荷を与えながら、関節へ無理な力を集中させず、毎回再現できる動作を選ぶことです。
重量を増やす判断は予定表だけで行わず、可動域、軌道、呼吸、左右差、反復速度を確認し、最後の反復でも基準を満たした場合に限って少しずつ進めます。
| 確認項目 | 進められる状態 | 見直す状態 |
|---|---|---|
| 姿勢 | 開始から終了まで安定 | 腰や膝が大きく崩れる |
| 速度 | 意図した速さを維持 | 途中で急激に停滞 |
| 痛み | 痛みなく実施 | 鋭い痛みが出る |
| 左右差 | 軌道がおおむね均等 | 片側へ大きく偏る |
| 回復 | 次回練習へ支障なし | 数日間動きが低下 |
スマートフォンで正面と側面から撮影すると、自分の感覚と実際の軌道の違いを確認できますが、映像だけで痛みの原因や医学的な問題を診断することはできません。
バーベル種目はカラーを装着し、周囲のスペースを確保し、スクワットではセーフティーバーを適切な高さに設定するなど、失敗しても重大事故になりにくい準備が必要です。
中高生のレジスタンストレーニングについても、ACSMは適切な指導、監督、段階的な負荷設定を重視しており、年齢だけで一律に禁止するより技術中心で進めることが大切です。
痛みのサイン
通常の筋肉痛は運動後に広い範囲へ現れ、数日で軽くなることが多い一方、関節の一点に出る鋭い痛み、しびれ、腫れ、力が抜ける感覚は同じものとして扱うべきではありません。
痛みを感じた時に根性で予定を完遂するのではなく、直ちに重量を下ろし、可動域や種目を変更し、日常生活にも影響する場合は医療機関へ相談します。
- 動作中の鋭い痛み
- 関節周辺の腫れ
- しびれや感覚低下
- 急激な筋力低下
- 安静時にも続く痛み
- 数日悪化し続ける症状
痛みが出た種目だけを避ければ解決するとは限らず、直前の走行量、睡眠不足、シューズの変更、路面、学校生活の疲労など複数の要因を振り返る必要があります。
けがから復帰する際は痛みが消えたことだけを基準にせず、自重、軽負荷、通常負荷、低速走、高速走というように段階を設け、それぞれの翌日の反応を確認します。
筋力トレーニングには傷害予防へ役立つ可能性がありますが、すべてのけがを防げるわけではないため、ウォームアップ、技術、練習量、回復を含めた総合的な対策が必要です。
食事と睡眠
ウエイトの効果を得るにはトレーニング内容だけでなく、筋修復と次の練習に必要なエネルギーを確保する食事、十分な睡眠、練習間の回復時間が欠かせません。
陸上選手は体重増加を恐れて食事を減らすことがありますが、利用できるエネルギーが不足すると、筋力向上が進みにくいだけでなく、体調不良や骨の問題や月経異常などのリスクにも注意が必要です。
主食で運動のエネルギーを確保し、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などからたんぱく質を分散して取り、野菜や果物も組み合わせることを基本にします。
トレーニング直後の栄養だけに集中するより、朝食を抜かないこと、練習前後に食べられる補食を準備すること、一日を通じて水分を取ることの方が改善につながる選手もいます。
睡眠時間が不足した日は同じ重量でも重く感じやすいため、記録表に睡眠、主観的疲労、筋肉痛を加え、予定重量を下げる判断材料として活用しましょう。
陸上ウエイトを競技記録へつなげよう
陸上ウエイトは重い重量を持ち上げること自体を競うものではなく、走る、跳ぶ、投げる動作で必要な力を安全に高め、競技練習の質を支えるための手段です。
最初はスクワット、デッドリフト、片脚種目、上半身の押す種目と引く種目から少数を選び、同じフォームを再現できるようになってから負荷を増やし、必要に応じてクリーンやジャンプなどのパワー種目を追加しましょう。
短距離は最大筋力と速い力発揮、中長距離はランニングエコノミーと姿勢維持、跳躍や投てきは体重当たりの筋力や全身のパワーを重視し、同じ基本種目でも回数、セット数、速度を変えることが重要です。
冬季は基礎作り、試合期は維持、レース週は疲労を残さない刺激へ目的を変え、挙上重量だけでなくスプリントタイム、跳躍、投てき、体調、痛みを記録すると、自分に合うメニューを判断しやすくなります。
競技練習よりウエイトを優先したり、痛みを我慢して計画を守ったりせず、フォーム、安全設備、食事、睡眠を含めて継続できる仕組みを作ることが、長期的な記録向上への近道です。




