陸上の短距離で記録を伸ばしたい中学生にとって、筋トレはスタートの加速、走っている姿勢の安定、地面へ力を伝える能力を高めるための重要な準備になりますが、重い器具を持ち上げたり限界まで追い込んだりすれば速くなるわけではありません。
成長期は身長、体重、筋力、関節の動かしやすさが短期間で変化しやすく、同じ学年でも身体の成熟度には大きな差があるため、友達と同じ重さや回数をこなすことより、自分が正しい姿勢を保てる負荷を選ぶことが大切です。
短距離選手が優先したいのは、脚だけを太くする筋トレではなく、股関節を使って地面を押す動作、片脚で身体を支える能力、接地時に体幹を安定させる能力、腕振りと下半身を連動させる能力を総合的に育てるトレーニングです。
ここでは、中学生が陸上の短距離に筋トレを取り入れる目的、安全な負荷の決め方、自宅や学校で行いやすい種目、1週間の組み立て方、走力へつなげるポイント、痛みや疲労をためないための注意点まで具体的に整理します。
陸上短距離の筋トレは中学生にも必要

結論として、中学生の短距離選手にも筋トレは必要ですが、目的は成人のボディビルのように筋肉を大きくすることではなく、走るために必要な動作を正確かつ力強く行える身体をつくることです。
適切な指導のもとで軽い負荷から始め、フォーム、左右差、疲労、成長の状態に合わせて段階的に進めれば、筋力だけでなく姿勢保持、バランス、身体の使い方を学ぶ機会にもなります。
ただし、筋トレだけで短距離の記録が伸びるわけではないため、スタート練習、加速走、全力に近いスプリント、動きづくり、休養と組み合わせ、走りの中で力を発揮できる状態を目指す必要があります。
目的は走る力を高めること
短距離選手が筋トレを行う最大の目的は、見た目の筋肉を増やすことではなく、スタートから身体を前へ押し出し、加速後も姿勢を崩さず、短い接地時間で大きな力を地面へ伝えられる身体をつくることです。
スクワットで股関節と膝を協調させる動き、ヒップリフトでお尻と太ももの裏側を使う感覚、プランクで体幹を固定する感覚を身につけると、走っているときに腰が落ちたり上体が左右へ揺れたりする動きを抑えやすくなります。
一方で、筋トレ中に大きな力を出せても、接地が長くなったり身体が重く感じられたりすれば短距離の走力には結びつかないため、筋力向上だけでなく素早く動く練習や実際のスプリントを継続することが欠かせません。
筋トレ後の評価では、何キログラムを持てたかだけを見るのではなく、スタートの一歩目が安定したか、加速中に腰が落ちにくくなったか、片脚で着地したときに膝が内側へ入らなくなったかなど、走動作に近い変化を確認しましょう。
自重種目から始める
筋トレ経験の少ない中学生は、最初からバーベルや重いダンベルを使うのではなく、自分の体重を負荷にした種目で基本姿勢を覚え、動作を最後までコントロールできる状態をつくることが安全性と効果の両面で重要です。
自重トレーニングでも、動作をゆっくり行う、片脚で行う、姿勢を保つ時間を少し延ばす、可動域を無理のない範囲で広げるなどの方法を使えば、器具を増やさなくても段階的に難易度を上げられます。
- 自重スクワット
- スプリットスクワット
- ヒップリフト
- カーフレイズ
- フロントプランク
- サイドプランク
- 腕立て伏せ
それぞれの種目で10回できるかどうかだけを判断基準にせず、足裏が浮かない、膝とつま先の向きがそろう、腰が反りすぎない、呼吸を止めないという条件を守れる回数まで行い、崩れた時点で終了する習慣をつけましょう。
自重種目を安定して行えるようになった後は、ゴムバンド、軽いメディシンボール、持ちやすいダンベルなどを利用できますが、負荷を加える前に顧問や専門知識のある指導者へフォームを確認してもらうことが大切です。
フォームを負荷より優先する
中学生の筋トレでは、重い負荷を扱うことよりも、目的の筋肉と関節を正しい順序で使い、動作の最初から最後まで姿勢を保つことを優先すると、走動作にも応用しやすい基礎を身につけられます。
スクワットで膝だけを前へ出してしゃがむ、ヒップリフトで腰を反らせて高さを出す、プランクで息を止めて耐えるといった代償動作が起きると、狙った部位へ刺激が入りにくいだけでなく、腰や膝へ負担が集中する可能性があります。
正しいフォームを覚える段階では、正面と横から動画を撮影し、足の幅、膝の向き、背中の形、頭の位置を見直す方法が有効ですが、映像だけで判断せず、痛みや違和感がないかも本人が指導者へ伝える必要があります。
回数の後半に姿勢が崩れる場合は根性で続けるのではなく、そのセットを終えて休むか、負荷を軽くするか、動作範囲を調整し、次の練習でも再現できる質の高い動きを残すことを優先しましょう。
全身をバランスよく鍛える
短距離では脚が大きな力を発揮しますが、骨盤の位置を保つ体幹、腕を前後へ動かす上半身、接地を支える足首も走りに関わるため、太ももの前側だけを集中的に鍛える構成は避ける必要があります。
特に中学生は、得意な動作ばかりを繰り返すと左右差や前後の筋力バランスが大きくなる場合があるため、押す動作、引く動作、しゃがむ動作、股関節を曲げ伸ばす動作、片脚で支える動作を組み合わせましょう。
| 鍛える要素 | 代表種目 | 走りでの役割 |
|---|---|---|
| 股関節の伸展 | ヒップリフト | 地面を後方へ押す |
| 脚全体の連動 | スクワット | 加速姿勢を支える |
| 片脚の安定 | スプリットスクワット | 接地時のぶれを抑える |
| 体幹の固定 | プランク | 骨盤の位置を保つ |
| 上半身の支持 | 腕立て伏せ | 腕振りの土台をつくる |
| 足首の反発 | カーフレイズ | 接地を安定させる |
一つの部位を限界まで疲れさせるより、全身の基本動作を少ない種目数で丁寧に行うほうが、部活動の走練習へ疲労を残しにくく、中学生が継続しやすいプログラムになります。
日本陸上競技連盟の中学校部活動向け手引きでも、筋力だけに偏らず、スピード、持久力、敏捷性、調整力などをバランスよく育てる考え方が示されているため、筋トレを競技練習全体の一部として位置づけましょう。
週2回程度を基本にする
筋トレの頻度は、走練習や試合の予定を考慮しながら週2回程度から始めると、動作を繰り返し学びつつ回復日も確保しやすく、筋トレ経験の少ない中学生にも管理しやすい組み方になります。
NSCAジャパンの青少年向けポジションステイトメントでは、適切な監督、軽い負荷からの開始、正しい技術の重視に加え、隔日で週2回から3回程度から始める一般的な指針が示されています。
ただし、週2回という数字を必ず守ることより、全力走の日、試合、体育の授業、他競技の活動、定期試験による睡眠不足まで含めて疲労を考え、脚が重い週は1回へ減らす判断が重要です。
筋肉痛が残っている状態で同じ部位を強く鍛えるとフォームが崩れやすいため、連日で高い負荷をかけず、筋トレを行った翌日は軽い技術練習や休養を入れるなど、少なくとも1日程度の間隔を設けましょう。
成長の個人差に合わせる
中学生は同じ年齢でも身長の伸び方、筋肉量、関節の柔軟性、運動経験が異なるため、学年や身長だけで負荷を一律に決めず、本人が安定して扱える範囲を個別に判断しなければなりません。
身長が急に伸びる時期には、以前できていた動作でバランスを崩したり、手足の長さが変わってスクワットの姿勢が変化したりすることがあるため、記録が停滞しても単純な筋力不足と決めつけないことが大切です。
友達より軽い負荷を使っていることを恥ずかしいと感じる選手もいますが、筋トレは競争ではなく、正しい動作を習得しながら自分の身体を管理する練習であり、他人との重量比較は安全な判断を妨げます。
指導者と保護者は、体格が大きい選手へ過度な期待をかけたり、体格が小さい選手に無理な増量や追い込みを求めたりせず、数カ月単位で動作、体調、走力の変化を見守りましょう。
走練習の代わりにはしない
筋トレで脚力が高まっても、スタート姿勢、加速中の身体角度、接地のタイミング、リラックスした腕振りは実際に走らなければ身につきにくいため、筋トレを増やして走る本数をすべて減らす方法は適切ではありません。
短距離の記録を伸ばすには、筋トレでつくった力を短時間で発揮する能力が必要であり、10メートルから30メートルの加速走、十分な休息を取った全力に近いスプリント、軽いジャンプ系運動を組み合わせる必要があります。
筋トレ直後に全力走を行うと、疲労によって接地や姿勢が乱れる選手もいるため、スピードを最も重視する日は、疲れていない状態で走練習を先に行い、その後に短時間の筋トレを入れる方法が基本になります。
雨天やグラウンドを使えない日に筋トレを活用することはできますが、走れなかった分を大量のスクワットで埋め合わせるのではなく、動きづくり、体幹、股関節周辺の種目を適量行い、次の走練習へ備えましょう。
記録以外の変化も確認する
筋トレの成果は100メートルのタイムだけでは判断しにくく、向かい風、気温、練習場所、スタートの成功度によって記録が変動するため、複数の指標を使って身体の変化を確認することが大切です。
自重スクワットを一定の姿勢で行える回数、片脚立ちで骨盤を水平に保てる時間、立ち幅跳び、30メートル走、練習後の疲労感などを定期的に記録すると、筋力と走動作の関係を振り返りやすくなります。
測定を頻繁に行いすぎると、毎回記録を狙って疲労が増えたり、小さな低下に不安を感じたりするため、日々はフォームと体調を記録し、タイムや跳躍距離の測定は数週間ごとに条件をそろえて行いましょう。
タイムがすぐに伸びなくても、接地時のぐらつきが減る、練習後半まで姿勢を保てる、筋肉痛からの回復が安定するといった変化があれば、筋トレが基礎づくりに役立っている可能性があります。
短距離に役立つ基本種目

短距離向けの筋トレは、種目数を増やすことより、しゃがむ、股関節を伸ばす、片脚で支える、体幹を固定するという基本動作を正確に行える構成にすることが重要です。
最初は各種目を1セットから2セット程度で始め、余裕をもって正しいフォームを保てる回数に設定し、翌日の走練習へ強い筋肉痛や脚の重さを残さない量に調整しましょう。
ここで紹介する内容は一般的な例であり、腰、膝、足首などに痛みがある場合や治療中のけががある場合は自己判断で続けず、医療専門職や指導者へ相談してください。
スクワット系で脚を連動させる
スクワット系の種目は、足首、膝、股関節を連動させて力を受け止め、再び地面を押す基礎を学べるため、スタートや加速に必要な下半身づくりの中心として活用できます。
動作では足裏全体を床につけ、膝をつま先と同じ方向へ動かし、背中を丸めずに股関節を後方へ引く意識を持ち、深さよりも姿勢が崩れない範囲を優先します。
| 段階 | 種目 | 回数の目安 |
|---|---|---|
| 入門 | 椅子スクワット | 8回から12回 |
| 基本 | 自重スクワット | 8回から15回 |
| 発展 | スプリットスクワット | 左右6回から10回 |
| 応用 | 軽負荷ゴブレットスクワット | 6回から10回 |
スプリットスクワットでは前脚だけで無理に立ち上がろうとせず、骨盤を正面へ向けたまま真下へ身体を下ろし、前脚の膝が内側へ入らない位置で動作を行いましょう。
回数を増やして脚が震えるまで追い込むより、立ち上がる速度が遅くなる前に終了し、短距離選手に必要な素早い力発揮を妨げる過度な疲労を残さないことが重要です。
臀部を使う感覚を身につける
短距離では股関節を伸ばして地面を後方へ押す能力が必要になるため、お尻と太ももの裏側を使うヒップリフト系の種目を取り入れると、腰を反らさずに股関節を動かす感覚を学びやすくなります。
仰向けで膝を曲げ、足裏を床につけた状態から、肋骨を開きすぎないように腹部へ軽く力を入れ、お尻を締めながら肩から膝までがなだらかな一直線になる位置まで持ち上げます。
- 両脚ヒップリフト
- ヒップリフト保持
- ヒップリフトマーチ
- 片脚ヒップリフト
- ゴムバンド付きヒップリフト
腰の筋肉ばかりが疲れる場合は、足の位置が遠すぎる、持ち上げる高さが大きすぎる、肋骨が開いて腰を反っている可能性があるため、動作範囲を小さくして基本姿勢へ戻しましょう。
日本陸上競技連盟の体力トレーニング資料でも、ヒップレイズやヒップレイズステップなどが紹介されており、中学生が臀部とハムストリングスを使う代表的な方法として参考にできます。
体幹と上半身を安定させる
短距離の体幹トレーニングは、腹筋を何百回も行うことではなく、脚が大きな力を出したときに骨盤と上半身の位置を保ち、腕振りの力を下半身へ伝えられる状態をつくることが目的です。
フロントプランクでは頭からかかとまでを一直線にし、腰を反らさず、肩をすくめず、呼吸を続けたまま10秒から30秒程度を目安に姿勢を保ちます。
サイドプランクは走行中の左右へのぶれを抑える基礎になりますが、肩や腰に違和感がある場合は膝を床につけた姿勢へ変更し、長時間耐えるより正確な位置を保つことを優先しましょう。
腕立て伏せは胸や腕を鍛えるだけでなく、体幹を固定した状態で上半身を動かす練習になるため、通常の姿勢が難しければ壁、机、ベンチなどへ手をつき、身体を一直線に保てる角度から始めます。
体幹種目を筋トレの最後に行う場合でも、疲労で腰が落ちたり呼吸が止まったりしたら終了し、時間を延ばすことより短い時間を複数回きれいに行う方法を選びましょう。
1週間の練習へ組み込む方法

筋トレの効果を走力へつなげるには、種目の選択だけでなく、全力走、技術練習、持久的な練習、試合、休養との配置を考え、疲労が重なりすぎない1週間をつくる必要があります。
中学生は部活動以外にも体育の授業、通学、クラブ活動、学校行事があるため、部活動の予定だけを見て筋トレ量を決めると、本人が実際に受けている負荷を過小評価する場合があります。
曜日を固定することは習慣化に役立ちますが、試合後、睡眠不足、体調不良、成長痛が疑われる状態では予定どおり行うことにこだわらず、減量や休止を選びましょう。
週2回の基本例を使う
週2回の筋トレは、全身の基本種目を繰り返しながら回復日を確保しやすく、走練習を中心にしたい中学生の短距離選手が最初に試しやすい組み方です。
スピード練習の質を守るため、全力に近いスプリントを先に行い、十分に休んだ後で筋トレを20分から30分程度行うと、疲労した状態で速く走る状況を避けやすくなります。
| 曜日 | 主な内容 | 筋トレ |
|---|---|---|
| 月 | 加速走 | 全身A |
| 火 | 軽い技術練習 | なし |
| 水 | 休養または軽運動 | なし |
| 木 | 最高速度練習 | 全身B |
| 金 | 調整練習 | なし |
| 土 | 走練習または記録会 | 原則なし |
| 日 | 休養 | なし |
全身Aではスクワット、ヒップリフト、腕立て伏せ、プランクを行い、全身Bではスプリットスクワット、カーフレイズ、ゴムバンドを使った引く動作、サイドプランクを行うと、同じ部位へ連続して強い負担をかけにくくなります。
この例をそのまま使うのではなく、学校の練習計画、選手の経験、競技会の日程に応じて顧問と調整し、筋トレ翌日の動きが悪い場合はセット数や種目数を減らしましょう。
速く走る練習を先に行う
スプリントは高い集中力と素早い力発揮を必要とするため、筋トレで脚や体幹が疲れる前に行い、一本ごとの速度とフォームを保つことが基本です。
ウォームアップ後に加速走や全力に近いスプリントを行い、走練習が終わって呼吸が落ち着いてから筋トレへ移ると、速く走る感覚を優先しながら補強を加えられます。
- 動的ウォームアップ
- 動きづくり
- 加速走または全力走
- 十分な休息
- 筋トレ
- 軽いクールダウン
ジャンプ系のトレーニングを行う場合も、疲労で接地が長くなる前に実施し、一回ごとの高さや距離、着地姿勢を保てなくなった時点で終了します。
筋トレを先に行う必要がある日には、負荷とセット数を抑え、限界まで追い込まず、走り始めたときに脚が重いと感じたら全力走を減らして技術練習へ切り替えましょう。
試合期は量を減らす
試合が近い時期の筋トレは、新しい能力を急いで伸ばすことより、これまで身につけた動作と筋力を維持し、疲労を残さないことを優先します。
普段2セット行っている種目を1セットへ減らす、種目数を半分程度にする、ジャンプの回数を減らすなど、強度を極端に落とさず総量を減らすと、身体へ刺激を入れながら回復しやすくなります。
試合直前に重いスクワットへ挑戦したり、初めて行う種目を大量に取り入れたりすると、筋肉痛や動作の違和感が生じる可能性があるため、少なくとも重要な競技会の数日前から慣れた内容へ絞りましょう。
試合後はタイムが悪かった罰として筋トレを追加せず、身体と気持ちを回復させたうえで、スタート、加速、後半の姿勢など改善点を整理し、次の練習計画へ反映させることが重要です。
日本陸上競技連盟の練習計画に関する資料でも、試合や学校行事を考慮して計画を立て、十分な休養を取らずに練習を続ける状態を避ける重要性が示されています。
筋トレを走力へつなげるポイント

筋トレで高めた力を短距離の記録へ結びつけるには、スタート、加速、最高速度という走りの局面ごとに必要な能力を整理し、実際のスプリント動作と関連づける必要があります。
スクワットの回数が増えたことだけで満足せず、地面へ力を加える方向、片脚支持の安定、接地時間、姿勢の切り替えが改善しているかを確認しましょう。
ジャンプやバウンディングなどの素早い運動は有効ですが、着地技術や基礎筋力が不足した状態で回数を増やすと負担が大きくなるため、段階的に導入してください。
スタートでは押す方向を意識する
スタートから加速する局面では、上体を低くすることだけでなく、足裏で地面を後方へ押し、その反作用で身体を前へ進めることが重要です。
スクワットやスプリットスクワットで脚全体を連動させる能力を身につけても、走るときに足を身体より前へ着いてブレーキをかければ、筋力を前進へ生かしにくくなります。
| 筋トレの動作 | 走りへの応用 | 注意点 |
|---|---|---|
| スクワット | 両脚で押す基礎 | 膝だけで動かない |
| スプリットスクワット | 片脚支持の安定 | 骨盤を正面へ向ける |
| ヒップリフト | 股関節の伸展 | 腰を反らさない |
| プランク | 加速姿勢の保持 | 呼吸を止めない |
筋トレ後は10メートルから20メートル程度の軽い加速動作で、地面を強く踏みつけるのではなく、身体の後方へ押す感覚を確認すると、補強運動と走動作を結びつけやすくなります。
ただし、疲労した状態でスタートを繰り返すと上体が早く起きたり一歩目が前へ流れたりするため、速度と姿勢が落ちたら本数を追加せず終了しましょう。
最高速度には素早さも必要になる
最高速度に近い局面では、単に大きな力を出すだけでなく、短い接地時間の中で力を発揮し、脚を素早く切り替える能力が必要になります。
重い負荷をゆっくり動かす筋トレだけでは短時間の力発揮を十分に練習できないため、基礎筋力をつくりながら、軽いジャンプ、スキップ、短い全力走などを適量組み合わせましょう。
- 低い高さのリバウンドジャンプ
- 両脚の連続ジャンプ
- スキップ系ドリル
- 短いバウンディング
- 十分に休んだ全力走
ジャンプ系種目では高さや距離を競うより、静かに安定して着地できるか、膝とつま先が同じ方向を向いているか、接地のたびに上体が大きく崩れないかを確認します。
着地音が大きくなる、膝が内側へ入る、接地が長くなる、跳ぶ高さが明らかに下がるといった変化は疲労の目安になるため、回数を決めていても途中で終了しましょう。
少ない回数で質を保つ
短距離向けのパワートレーニングは、疲労へ耐えることより、一回ごとに素早く正確な動きを行うことが重要なため、筋力系種目より少ない回数で十分な休息を取ります。
例えばジャンプ系種目は3回から5回程度を1セットとし、着地姿勢と反発の速さを保てる範囲で1セットから3セット行う方法が考えられますが、初心者はさらに少ない量から始めます。
セット間は息が整っただけで再開せず、脚の重さがなくなり集中して着地できる状態まで休み、動作の質が戻らない場合はその日のパワートレーニングを終了します。
ジャンプの高さや距離を毎回最大にしようとするとフォームを失いやすいため、最初は70パーセント程度の感覚で正しい動作を学び、指導者が安全性を確認してから強度を上げましょう。
筋力、スプリント、ジャンプのすべてを一日で最大量行うのではなく、その日の重点を一つ決め、他の内容を少量へ抑えることが、長期的な成長とけがの予防につながります。
成長期の安全と回復を守る

中学生の筋トレでは、練習メニューの完成度より、痛みを我慢させない環境、十分な睡眠と食事、本人が疲労を伝えられる関係を整えることが優先されます。
成長期の身体は日によって動きやすさが変わることがあり、前回できた負荷を毎回同じように扱えるとは限らないため、ウォームアップ中の状態を見て内容を調整しましょう。
保護者や指導者はタイムや重量だけで評価せず、学校生活、食欲、睡眠、気分、痛みを含めて選手の状態を確認し、必要なときに休ませる判断をしてください。
痛みがあるときは中止する
筋肉を使った疲労感と、関節や骨に生じる鋭い痛みは区別する必要があり、動作中に腰、膝、すね、足首などへ痛みを感じた場合は、その種目を直ちに中止します。
痛みを隠して続けるとフォームを変えてかばう動作が起こり、別の部位へ負担が広がる場合があるため、本人が痛いと言いやすく、休んでも責められない雰囲気をつくることが重要です。
- 動作中の鋭い痛み
- 安静時にも続く痛み
- 腫れや熱感
- 片側だけの強い痛み
- 走り方が変わる違和感
- 数日休んでも改善しない症状
これらの状態がある場合は筋トレや全力走を続けず、保護者と指導者へ伝え、必要に応じて整形外科やスポーツ分野に詳しい医療専門職へ相談しましょう。
痛みが消えた直後に以前と同じ量へ戻すのではなく、自重、少ない回数、短い走行距離から再開し、翌日まで症状が出ないことを確認しながら段階的に増やします。
食事で成長と回復を支える
筋トレの効果を得るには、特定の食品やサプリメントへ頼るより、主食、主菜、副菜、乳製品、果物などを組み合わせ、成長と日々の活動に必要なエネルギーを不足させないことが大切です。
食事量を極端に減らした状態では、練習中の集中力や回復が低下しやすく、体重が軽ければ必ず短距離で有利になるわけではないため、自己判断による減量は避けましょう。
| 役割 | 食品例 | 取り入れる場面 |
|---|---|---|
| 活動のエネルギー | ご飯やパン | 毎食 |
| 身体の材料 | 肉や魚や卵 | 主菜 |
| 骨の成長 | 牛乳や小魚 | 食事や補食 |
| 体調管理 | 野菜や果物 | 毎日の食事 |
| 水分補給 | 水や適切な飲料 | 練習前後 |
練習後すぐに夕食を取れない場合は、おにぎり、パン、牛乳、ヨーグルト、果物など、持ち運びやすく食べ慣れたものを補食として利用し、その後の食事を抜かないようにします。
プロテインなどの利用を考える場合は、広告や友達の意見だけで決めず、まず通常の食事内容を見直し、保護者、指導者、必要に応じて管理栄養士などの専門家へ相談しましょう。
睡眠と休養を練習に含める
睡眠は筋トレや走練習で受けた疲労から回復し、学習への集中力を保つために欠かせないため、夜遅くまで自主練習を行って睡眠時間を削る方法は避ける必要があります。
朝起きられない、授業中に強い眠気がある、食欲が落ちる、練習へ行く気持ちが続かない、安静時の疲労感が抜けないといった変化がある場合は、トレーニング量が生活に対して多すぎる可能性があります。
休養日は一日中動いてはいけないという意味ではなく、疲労の状態に応じて散歩、軽いストレッチ、入浴などで気分転換を図ることはできますが、全力ダッシュや高回数の筋トレを追加しないようにします。
定期試験、学校行事、長距離移動を伴う大会がある週は、通常より睡眠や回復が不足しやすいため、筋トレのセット数を減らすか休止し、生活全体の負荷を調整しましょう。
トレーニング日誌へ睡眠時間、疲労感、痛み、練習内容を簡単に記録すると、調子を崩す前に変化へ気づきやすくなり、本人と指導者が負荷を相談する材料になります。
正しい筋トレで短距離の土台を育てよう
中学生の短距離選手にとって筋トレは、重い重量を競うためのものではなく、股関節を使って地面を押す能力、片脚で身体を支える能力、体幹を安定させる能力を身につけ、速く走るための土台を整える手段です。
自重スクワット、スプリットスクワット、ヒップリフト、プランク、腕立て伏せなどの基本種目から始め、正しいフォームを保てる回数で行い、負荷やセット数は成長、経験、疲労に合わせて少しずつ増やしましょう。
筋トレは週2回程度を基本にし、全力に近い走練習を疲れていない状態で先に行い、筋トレ後には十分な回復日を設けると、スプリントの質を守りながら継続しやすくなります。
タイムを早く伸ばそうとして追い込みすぎず、痛み、睡眠不足、食欲低下、強い疲労があるときは休み、保護者や指導者と相談しながら数カ月から数年の視点で身体を育てることが、中学生の可能性を将来へつなげる近道になります。




