陸上で腹筋を鍛えようと考えたとき、上体起こしを何十回も繰り返せば速く走れると思う人は少なくありませんが、競技中の腹部には身体を大きく丸める力よりも、接地や腕振りで生じる力を受け止めながら姿勢を保つ働きが求められます。
短距離では加速中の前傾姿勢や高速走行中の骨盤位置を支え、中長距離では疲労しても上体の揺れを抑え、ハードルや跳躍では片脚支持や空中動作の安定に関わるため、腹筋は陸上競技の多くの種目で重要な土台になります。
ただし、腹筋を鍛えれば自動的に記録が伸びるわけではなく、種目の目的、選手の体力、走練習との組み合わせ、呼吸や骨盤の位置まで考えなければ、疲労を増やしたり腰に負担をかけたりする可能性があります。
ここでは、陸上選手が優先したい腹筋トレーニング、短距離や長距離など種目別の考え方、実施回数の決め方、腰を守るフォーム、鍛えた力を走動作へつなげる方法まで、初心者にも実践しやすい順序で整理します。
陸上で腹筋を鍛えるなら走りを支える体幹機能を優先する

陸上選手が腹筋を鍛える目的は、見た目を整えることや上体起こしの回数を増やすことではなく、走る、跳ぶ、投げる動作の中で胸郭と骨盤の位置関係を保ち、脚や腕が生み出す力を効率よく伝えられる身体をつくることです。
日本陸上競技連盟のファンクショナルトレーニング資料でも、歩行や走動作では腹部を大きく伸び縮みさせるより、脊柱を安定させた状態で負荷に耐える考え方が示されています。
まずは体幹を反らさない、横に崩さない、不要にひねらないという三つの能力を身につけ、その後に脚の動きや素早い力発揮を組み合わせると、腹筋運動を競技動作へ結びつけやすくなります。
腹筋の役割
陸上競技で使われる腹筋は腹直筋だけではなく、腹斜筋、腹横筋、背部の筋群、横隔膜、骨盤周辺などと協力し、接地の衝撃や腕振りによる回旋力に対して胴体の位置を整える役割を担います。
速く走る場面では脚を前後に大きく動かしているように見えますが、胴体まで同じ方向に大きく揺れてしまうと、接地ごとに姿勢を立て直す必要が生じ、次の一歩へ移る動作が遅れやすくなります。
| 体幹の働き | 競技中の例 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 反りを抑える | 加速走 | 骨盤位置の維持 |
| 横崩れを抑える | 片脚接地 | 軸の安定 |
| 回旋を制御する | 腕振り | 力の伝達 |
| 呼吸と協調する | 中長距離走 | 姿勢の持続 |
腹筋を鍛える際は、腹部が熱くなるかだけで判断せず、頭から骨盤までの並びを保てているか、左右差が大きくないか、呼吸を止めずに力を出せているかを確認することが重要です。
腹部を固めすぎて肩や首まで緊張すると腕振りが小さくなるため、必要な部分には力を入れながら、肩甲骨や股関節は動かせる状態を目指すことが陸上向けの腹筋づくりにつながります。
フロントプランク
フロントプランクは、うつ伏せから前腕とつま先で身体を支え、腰の反りや骨盤の落下を抑える基本種目であり、陸上選手が体幹前面の安定感を身につける最初の練習として取り入れやすい方法です。
肘を肩の真下に置き、後頭部、背中、骨盤、かかとが緩やかな一直線になるように整え、みぞおちをわずかに引き上げながら、お腹の前後左右を膨らませるように呼吸します。
腰が反っているのに長時間耐えると、腹筋を鍛えているつもりでも腰部や肩に負担が集まりやすいため、最初は正しい姿勢を保てる範囲で十秒から二十秒程度に区切り、複数回に分ける方法が適しています。
慣れてきた選手は、片脚を数センチ浮かせる、肘を少し前へ置く、前後に小さく重心を移すなどの変化を加えられますが、負荷を上げた瞬間に骨盤が回る場合は基本姿勢へ戻す必要があります。
日本陸上競技連盟の中学校部活動向け指導資料でも、スタビライゼーションは単に耐えるのではなく、どの筋肉を使っているか意識することが大切だと示されています。
サイドプランク
サイドプランクは、片脚で接地したときに骨盤や上体が横へ流れる動きを抑えるために役立ち、短距離の高速走行だけでなく、長距離で疲労した後半のフォーム維持にも取り入れやすい種目です。
横向きで肘を肩の真下に置き、膝を伸ばした状態で足部と前腕を支点にして腰を持ち上げ、胸と骨盤が床へ向かって回らないように正面を向けたまま姿勢を保ちます。
難しい場合は膝を曲げて前腕と膝で支える姿勢から始めてもよく、簡単な形で骨盤を正しく保てるようになってから脚を伸ばしたほうが、代償動作を覚えにくくなります。
左右で保持時間や安定感が大きく違う選手は、弱い側だけを過剰に増やすのではなく、股関節外側の筋力、足首の安定性、胸郭の動かしやすさも含めて原因を探ることが必要です。
上側の脚を持ち上げる発展形は中臀筋にも負荷を加えられますが、腰を曲げて脚を上げると狙いが変わるため、回数よりも頭から支持脚までの長い軸を崩さないことを優先します。
デッドバグ
デッドバグは、仰向けで腰と骨盤を安定させたまま左右の腕脚を動かす種目であり、体幹を固定しながら股関節や肩を動かす感覚を学べるため、走動作に近い協調性を身につけやすい特徴があります。
仰向けで股関節と膝を曲げて脚を持ち上げ、両腕を天井へ伸ばした姿勢から、腰と床の隙間を大きくしないように注意しながら、対角の腕と脚をゆっくり遠ざけます。
脚を低く伸ばすほど腰を反らす力が強くなるため、腹部の力が抜ける選手はかかとを床へ軽く触れるだけにし、動かす距離よりも骨盤位置を変えないことを優先します。
左右交互に動かすときは、息を吐きながら手足を伸ばし、吸いながら戻すリズムを使うと腹部の緊張を調整しやすく、呼吸を止めたまま力む癖も防ぎやすくなります。
速く動かすと勢いで回数をこなせてしまうため、初心者は片側を三秒ほどかけて伸ばし、腰が浮かずに左右各六回から十回できる状態を目安に次の段階へ進みます。
バードドッグ
バードドッグは、四つ這いから対角の腕と脚を伸ばし、体幹の回旋や腰の反りを抑える種目であり、地面を押す感覚と片脚支持に必要なバランスを同時に練習できます。
手を肩の真下、膝を股関節の真下に置き、背中を過度に丸めたり反らしたりせず、床に置いた手と膝で地面を押しながら反対側の腕と脚を遠くへ伸ばします。
脚を高く上げることが目的ではなく、かかとを後方へ押し出し、指先を前方へ伸ばして身体を長く保つことが重要であり、高さを求めて腰を反らすと腹部への負荷が抜けやすくなります。
骨盤の上にペットボトルや軽い棒を置いて落とさないように動くと、身体が左右に回っていないかを自分でも確認しやすく、チーム練習でもフォームを共有できます。
安定して行える選手は、伸ばした腕と脚を素早く引き寄せて再び伸ばす方法へ進めますが、スピードを上げても支持側の肩や股関節が沈まない範囲で実施します。
リバースクランチ
リバースクランチは、仰向けで膝を胸へ近づけながら骨盤を小さく持ち上げる動的な腹筋運動であり、体幹を丸める力を補助的に鍛えたい選手が取り入れやすい種目です。
脚を勢いよく振り上げるのではなく、息を吐きながら恥骨をみぞおちへ近づけるように骨盤をゆっくり後傾させ、腰の下部が床からわずかに離れたところで動きを止めます。
反動を使うと股関節前面の筋肉に負荷が偏り、腰の反りも強くなりやすいため、脚を下ろす局面を二秒から三秒かけて制御することが重要です。
通常の上体起こしで首が疲れる選手にも選択しやすい方法ですが、腰痛がある場合や脚を下ろすと腰が浮く場合は、膝の角度を深くしたまま小さな範囲で行います。
陸上選手にとって動的な腹筋運動は土台づくりの一部であり、この種目だけで終わらせず、プランクやデッドバグなど姿勢を保つ種目と組み合わせることが大切です。
パロフプレス
パロフプレスは、身体の横から引かれるチューブやケーブルに抵抗して正面姿勢を保つ種目であり、腕振りや接地によって発生する回旋力を体幹で制御する感覚を養えます。
チューブを胸の前で両手に持ち、固定場所に対して身体を横向きにして立ち、膝と股関節を軽く曲げた状態から両腕を正面へゆっくり伸ばします。
腕が身体から離れるほど回される力が強くなるため、胸や骨盤が固定場所の方向へ向かないように腹部へ力を入れ、左右の足裏で均等に地面を押します。
走動作へ近づけたい場合は、両脚立ちから前後に足を開いた姿勢、片膝立ち、片脚立ちへ段階的に進めますが、バランスを崩して腕だけで押し返す負荷設定は避けます。
速いひねり動作を追加する前に、まずは回されない能力を身につけることで、胸郭を動かしながら腰部の過剰な回旋を抑える基礎をつくれます。
目的別の選択
腹筋メニューは有名な種目をすべて行うのではなく、自分のフォームで崩れやすい方向や競技中に困っている動作から逆算して選ぶと、限られた練習時間を有効に使えます。
動画で走りを確認したときに腰が反る、上体が横へ揺れる、腕振りに合わせて骨盤まで大きく回るなどの特徴があれば、それぞれに対応する安定化種目を優先します。
- 腰が反る場合はフロントプランク
- 上体が横へ流れる場合はサイドプランク
- 腕脚の連動が苦手ならデッドバグ
- 四つ這いで軸を学ぶならバードドッグ
- 回旋を抑えたい場合はパロフプレス
- 動的な収縮を補うならリバースクランチ
一回の練習で選ぶ種目は二つから四つ程度でも十分であり、姿勢維持、横方向の安定、腕脚の連動という異なる目的を組み合わせると偏りを抑えられます。
実施中に腰や股関節へ違和感が出る種目は無理に続けず、負荷を下げる、可動域を小さくする、別の種目へ置き換えるなど、正しい動作を守れる条件へ調整します。
種目によって変わる腹筋の使い方

陸上競技は同じ走る動作でも、短距離、中長距離、ハードル、跳躍、投てきによって速度、接地時間、姿勢、力を発揮する方向が異なるため、腹筋トレーニングの優先順位も変わります。
全選手が同じ回数の上体起こしを行うより、自分の種目で体幹がどの方向へ崩れやすいかを考え、静的な安定性、素早い力の伝達、長時間の姿勢維持から必要な能力を選ぶことが合理的です。
ただし、専門種目へ近づけるほどフォームの難度も高くなるため、基本的なプランクやデッドバグを正しく行えない段階で、複雑なジャンプや投球動作を組み合わせないようにします。
短距離
短距離では、スタートから加速局面にかけて大きな前傾姿勢を保ち、高速局面では接地のたびに生じる強い力を受け止めるため、腹筋には短時間で高い緊張をつくる能力が求められます。
腹部が抜けて骨盤が前へ傾きすぎると腰が反り、脚を前方へ運ぶ動作や接地位置にも影響しやすいため、反りを抑える種目と腕脚を素早く動かす種目を段階的に組み合わせます。
| 局面 | 必要な働き | 候補種目 |
|---|---|---|
| スタート | 前傾姿勢の保持 | プランク |
| 加速 | 骨盤の安定 | デッドバグ |
| 最高速度 | 回旋の制御 | パロフプレス |
| 後半 | 姿勢の持続 | サイドプランク |
補強後には短い加速走や壁押しドリルを行い、腹部の緊張を保ちながら股関節を動かす感覚を確認すると、床上のトレーニングを走りへ移しやすくなります。
高負荷の腹筋運動で疲れ切った直後に最高速度の走練習をすると姿勢が崩れる場合があるため、重要なスプリント練習の前は刺激量を抑え、本格的な補強は走練習後か別日に配置します。
中長距離
中長距離では、一歩ごとの最大出力よりも、呼吸を続けながら長時間にわたって上体と骨盤の位置を保ち、疲労後も不要な左右動や上下動を増やさない能力が重要になります。
強く力む練習ばかり行うと肩や胸郭まで固まり、走行中の呼吸や腕振りを妨げることがあるため、低から中程度の負荷で姿勢と呼吸を両立させる種目を選びます。
- 呼吸を続けるフロントプランク
- 左右差を整えるサイドプランク
- 腕脚を交互に動かすデッドバグ
- 片脚支持を意識するバードドッグ
- 短時間で行う補助的なクランチ
セット時間を長くすれば必ず競技力が高まるわけではなく、腰が落ちたり肩がすくんだりした状態で耐えるより、二十秒前後の正確な動作を休憩を挟んで繰り返すほうが質を保ちやすくなります。
距離走やポイント練習で疲労が大きい日は、回数を減らして呼吸練習と軽い安定化種目だけにし、翌日の走りへ疲れを残さない調整も必要です。
技術種目
ハードル、跳躍、投てきなどの技術種目では、助走や踏み切りで生じた力を空中動作や投てき物へ伝えるため、体幹を固める能力に加えて、必要な方向へ素早く力を出し入れする能力が求められます。
ハードルでは片脚支持中の横崩れ、走幅跳や走高跳では踏み切り時の骨盤位置、投てきでは下半身から上半身へ力を伝える回旋の順序が重要になるため、専門動作を想定した姿勢を使います。
ただし、腰を大きくひねることで回旋力を鍛えようとすると腰部へ負担が集中しやすいため、胸郭と股関節を動かしながら腹部で腰の位置を保つ考え方が必要です。
日本陸上競技連盟の傷害予防資料でも、腰部は大きな回旋が得意ではなく、動的な体幹運動では腰をひねるより胸を回すことが示されています。
メディシンボール投げなどの発展種目は、基本姿勢を保てる選手が軽い負荷から行い、疲労で膝や腰の位置が崩れる前にセットを終えることが大切です。
効果を引き出す腹筋メニューの組み方

腹筋トレーニングは、毎日限界まで行うよりも、走練習の目的と疲労状態に合わせて回数、保持時間、セット数を調整し、正しい姿勢を繰り返し再現できる量に設定することが重要です。
初心者は多くの種目を一度に覚えようとせず、基本種目を少ない回数で継続し、動作が安定してから保持時間、手足の動き、外部負荷の順に難度を上げると失敗を減らせます。
腹部の筋肉痛だけを成果の基準にせず、走っているときの腰の反り、上体の揺れ、接地後の姿勢、練習後の腰の張りがどう変化したかまで確認します。
実施回数
腹筋トレーニングの頻度は、競技レベルや走練習の量によって変わりますが、基本種目を週二回から三回程度行い、フォームを保ったまま継続できるかを確認する方法が始めやすい目安です。
保持種目は時間、動的種目は回数だけで管理するのではなく、姿勢が崩れる直前で終了し、次のセットでも同じ品質を再現できる余力を残します。
| 段階 | 保持種目 | 動的種目 | セット |
|---|---|---|---|
| 初心者 | 10秒から20秒 | 左右6回程度 | 2セット |
| 慣れた選手 | 20秒から40秒 | 左右8回から12回 | 2から3セット |
| 競技者 | 姿勢別に調整 | 速度別に調整 | 目的別に設定 |
長時間のプランクを一回だけ行うより、短い保持を複数セット行い、毎回正しい骨盤位置をつくり直すほうが、フォームを学ぶ段階では動作の質を確認しやすくなります。
成長期の選手や筋力トレーニングに慣れていない選手は、チーム全員を同じ回数にせず、姿勢、発育、既往歴に合わせて負荷を変える必要があります。
練習の順序
腹筋運動を行うタイミングは、ウォーミングアップ、走練習後、筋力トレーニング日、自宅での補強など複数ありますが、目的によって量と強度を変えることが必要です。
走る前は身体を疲れさせるためではなく、骨盤位置や呼吸を確認するために低負荷で行い、走練習後は筋力向上を目的としてセット数や負荷を増やせます。
- 走る前は短時間の姿勢確認
- 走った後は本格的な補強
- 高強度走の前は疲労を抑制
- 休養日は軽い動作学習
- 試合前日は新種目を回避
短距離の最高速度練習や跳躍の踏み切り練習では新鮮な状態が必要になるため、高負荷の体幹トレーニングを先に行って腹部や股関節を疲れさせないようにします。
ウォーミングアップに取り入れる場合は、デッドバグやバードドッグを一セットずつ行った後に立位のドリルへ移り、床上で覚えた姿勢を実際の動作へつなげます。
負荷の進め方
腹筋トレーニングの負荷は、保持時間を伸ばすだけでなく、支持面を狭くする、手足を動かす、動作速度を変える、チューブやボールを使うなど複数の方法で調整できます。
最初に優先するのは正しい姿勢であり、基本姿勢を保てないまま片脚を浮かせたり重りを持ったりすると、狙った筋肉より腰や肩で負荷を受ける癖がつきやすくなります。
一つの段階で全セットを安定して行え、翌日の走練習にも大きな影響が出ない状態が続いたら、保持時間、回数、難度のうち一項目だけを少し増やします。
複数の条件を同時に変えると、どの負荷がフォーム崩れや疲労の原因になったか判断しにくいため、練習記録には種目名だけでなく時間、回数、左右差、違和感も残します。
競技会が近い時期は筋肉痛が強く出る新種目を増やさず、慣れた種目を少量行って姿勢感覚を整える使い方へ切り替えることが適切です。
フォームの崩れと腰への負担を防ぐ

腹筋運動は腰痛予防を目的に選ばれることがありますが、腰を反らしたまま脚を動かす、回数を優先して勢いを使う、呼吸を止めて耐えるといった方法では、かえって腰や股関節へ負担が集まることがあります。
大切なのは、腹部に力を入れることだけではなく、胸郭、骨盤、股関節を適切な位置に整え、腰部が本来以上に動かなくても手足を動かせる状態をつくることです。
痛みがある選手は自己判断で負荷を追加せず、症状が出る方向、競技中の動作、日常生活での痛みを整理したうえで、医療機関や専門家へ相談します。
腰の反り
腹筋運動で最も起こりやすい失敗の一つは、脚や腕を遠くへ動かしたときに腹部の緊張が抜け、骨盤が前へ傾いて腰と床の隙間が大きくなることです。
腰が反る選手は可動域を狭くし、息を長く吐きながら肋骨を骨盤へ近づける感覚をつくり、腰部ではなく股関節や肩関節から手足を動かします。
| 崩れ | 考えられる原因 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 腰が反る | 負荷が高い | 可動域を縮小 |
| 骨盤が落ちる | 保持力不足 | 時間を短縮 |
| 肩がすくむ | 上肢へ力み | 床を押す |
| 息が止まる | 過度な緊張 | 負荷を軽減 |
鏡だけでは腰の反りを確認しにくいため、横から動画を撮る、指を腰の下へ入れる、指導者に骨盤位置を見てもらうなど、客観的な方法を使います。
姿勢を修正しても反りが強い場合は、腹筋の弱さだけでなく、股関節前面の硬さ、胸郭の動きにくさ、立位姿勢の癖も確認する必要があります。
痛みへの対応
腹筋運動中に腰、股関節、首へ鋭い痛みやしびれが出た場合は、筋肉へ効いている感覚と判断して続けず、その場で運動を中止して症状の変化を確認します。
軽い筋肉の疲労感と関節周辺の痛みは同じではなく、動作をやめても痛みが続く、日常動作に影響する、同じ場所で繰り返す場合は専門家による評価が必要です。
- 鋭い痛みが出たら中止
- しびれを伴う場合は相談
- 翌日まで続く痛みを記録
- 痛む方向の運動を回避
- 負荷を下げても痛むなら受診
日本陸上競技連盟の傷害予防資料では、脚上げ腹筋のように股関節を使う運動は走動作の補強になり得る一方、正しく行わないと腰痛の原因になることが示されています。
腰痛があるから腹筋を増やすという一律の対応ではなく、前屈で痛むか後屈で痛むか、走行中か練習後か、股関節や背中の硬さがあるかを分けて考えることが大切です。
呼吸
体幹を安定させるときに呼吸を完全に止めると、短時間は力を出しやすくても、長距離走や連続したスプリントのように呼吸を続ける場面へつながりにくくなります。
初心者は息を吐きながら腹部を薄くすることだけを意識しがちですが、実際には腹部の前面だけでなく脇腹や背中側にも空気が入るように呼吸すると、胴体全体で圧力をつくりやすくなります。
プランクでは四秒ほどかけて吐き、鼻から静かに吸うリズムを繰り返し、息を吸った瞬間に腰が反ったり骨盤が落ちたりしないかを確認します。
動的種目では負荷が強くなる局面で吐き、開始姿勢へ戻るときに吸う方法が使いやすいものの、競技動作では一定の型に固めず自然な呼吸を保つ必要があります。
呼吸を続けるだけで姿勢が崩れる場合は保持時間が長すぎる可能性があるため、短い時間へ戻し、呼吸と安定を両立できる範囲から積み上げます。
鍛えた腹筋を走りへつなげる

床上の腹筋運動が上手になっても、立位や片脚支持で同じ姿勢を再現できなければ、走動作への効果は限定的になりやすいため、基本種目の後に競技姿勢へ近い練習を加えることが必要です。
仰向け、四つ這い、両脚立ち、前後開脚、片脚立ち、歩行、ドリル、走行という順に姿勢を発展させると、急に複雑な動作へ移るよりも、どの段階で軸が崩れるかを把握できます。
腹部を固め続けるのではなく、接地や踏み切りの瞬間には必要な緊張をつくり、空中局面や回復局面では余計な力を抜く感覚も競技パフォーマンスには欠かせません。
走動作への移行
腹筋トレーニング後は、壁押し姿勢、マーチ、スキップ、短い加速走などを使い、胸郭と骨盤の位置を保ちながら脚を動かせるかを確認します。
フロントプランクで腰の反りを抑えられても、立った瞬間に肋骨が前へ開いて腰が反る選手は、壁に手をついた前傾姿勢で片脚を交互に上げる練習が役立ちます。
| 床上種目 | 移行ドリル | 確認点 |
|---|---|---|
| プランク | 壁押し | 頭から足の軸 |
| デッドバグ | マーチ | 腕脚の連動 |
| サイドプランク | 片脚立ち | 横方向の安定 |
| パロフプレス | スキップ | 回旋の制御 |
ドリルでは腹部へ過剰に力を入れて動きを小さくするのではなく、胴体の軸を保ちながら股関節と肩甲骨を滑らかに動かせる状態を目指します。
最後に二十メートルから四十メートル程度の走りを行い、補強前より姿勢が自然に整うか、力みが増えていないか、腰や脚の動きに違和感がないかを確認します。
自己評価
腹筋トレーニングの成果は見た目や保持時間だけで判断せず、正面と横から撮影した走行動画、片脚立ち、プランク中の姿勢、左右の安定感を定期的に比べます。
評価項目を増やしすぎると変化を追いにくいため、腰の反り、骨盤の左右差、上体の揺れ、呼吸のしやすさなど、自分の課題に関係する二つから三つへ絞ります。
- 同じ姿勢を再現できるか
- 左右の保持時間に差があるか
- 呼吸中も腰が安定するか
- 走行後半で上体が揺れないか
- 翌日に腰の張りが残らないか
プランクの時間が伸びても走行フォームが変わらない場合は、筋力不足ではなく、立位への移行練習が足りない、走技術の課題がある、負荷設定が競技目的と合っていない可能性があります。
二週間から四週間ごとに同じ条件で動画や記録を比べ、変化が乏しければ種目数を増やす前に、フォーム、実施順序、走練習とのつながりを見直します。
継続
腹筋トレーニングは一度に大量に行うより、短時間でも正しい動作を繰り返し、走練習や休養とのバランスを保ちながら数週間から数か月継続することで身体の使い方を定着させやすくなります。
練習量を増やしている時期に補強まで急に増やすと、腹部や股関節の疲労で走行姿勢が崩れる場合があるため、全体の負荷を見ながら追加します。
睡眠不足やエネルギー不足の状態では筋力トレーニングからの回復が遅れやすいため、食事、睡眠、水分補給を整えることも腹筋を競技力へつなげるための一部です。
自宅で行う場合は曜日と種目を固定し、プランク、サイドプランク、デッドバグを各二セットなど、十数分で終わる内容から始めると習慣化しやすくなります。
継続できないほど複雑なメニューより、自分の課題に合う三種目前後を丁寧に行い、一定期間ごとにフォームと走りを見直す方法が実践的です。
腹筋を正しく鍛えて陸上の動きを安定させよう
陸上選手に必要な腹筋は、上体を何度も起こす力だけではなく、走行中に腰の反りや上体の横揺れを抑え、胸郭と骨盤の位置を保ちながら腕脚を動かすための体幹機能です。
基本メニューとしては、反りを抑えるフロントプランク、横方向を支えるサイドプランク、腕脚の連動を学ぶデッドバグ、四つ這いで軸を整えるバードドッグ、回旋を制御するパロフプレスなどを目的に応じて選びます。
短距離では短時間で強い力を受け止める能力、中長距離では呼吸を続けながら姿勢を保つ能力、ハードルや跳躍や投てきでは片脚支持と回旋を制御する能力を優先し、すべての選手が同じ内容を行わないことが大切です。
回数や保持時間を伸ばす前に、腰が反らないか、骨盤が傾かないか、呼吸を続けられるかを確認し、床上の補強から立位、ドリル、実際の走りへ段階的につなげることで、腹筋トレーニングを陸上の安定した動作へ生かしやすくなります。



